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【SF】前年王者の山本尚貴は11位「時間はかかるが、必ずトップ争いができるクルマに仕上げる」
- 2014/4/16
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マシン・エンジンが一新され注目を集めている全日本選手権スーパーフォーミュラ。アンドレ・ロッテラー、中嶋一貴、ロイック・デュバルなど昨年も同レースを盛り上げたドライバーが昨年までのコースレコードを大きく上回るパフォーマンスを見せる中、前年度チャンピオンの山本尚貴は苦戦を強いられていた。
今年からマシンはダラーラ社製のSF14に変更。エンジンも2.0リッター直列4気筒ターボエンジンに規則変更され、トヨタ・ホンダが新開発のエンジンを用意した。しかし3月に行われた合同テストで、いざ全車が出揃ってみるとトヨタ勢がトップ10を独占。ホンダ勢はトップから2秒遅れをとってしまう。山本が今季も所属するTEAM無限も例外なく苦戦を強いられ、テストでは何度もセッティングを変更。少しでも速く走れるものを見つけ出そう努力を重ねたが、結局2日間のセッションの中で良い感触を得ることができなかった。いつもはメディアにも笑顔で対応する山本だったが、さすがに落胆した表情を隠すことは出来ず「前向きなコメントをしたいけど、今回ばかりはさすがに見つからない」と話していた。
2月に予定されていた第1回公式合同テストが悪天候で中止になったことにより、今季のいくつかのレースで金曜日にも専有走行が設けられることに。開幕戦仕様でマシンのセッティングも一新した1号車だったが、逆にバランスが悪くなっておりトップから3秒遅れの全19台18位。まさかの結果に陣営は夜遅くまで緊急ミーティングを行い、翌朝から始まる2014年最初のレースウィークに備えた。
【初日の3秒遅れから、着実に進化を見せた予選日】
一夜明けた12日(土)。午前中に行われたフリー走行1回目では、マシンセッティングを大幅に変更。少しでも1周トータルでのスピードアップを目指すも結果はトップから2秒遅れの15位。カーナンバー1をつけていながら上位に食い込めない悔しさに悔しい表情を隠し切ることができなかった。
それでも、午後の予選では“さすがチャンピオン”と言いたくなるほど、きっちりと合わせ込んでベストを尽くす走りを披露する。まず20分間で行われたQ1ではトップから0.8秒差まで近づきホンダ勢トップの7位でQ2へ進出。もちろん昨年の活躍を考えれば0.8秒も引き離されているという表現が正しいのかもしれないが、冬のテストや前日の専有走行までのタイム差を考えると、短期間でかなりの改善をしてきたのだ。TEAM無限とホンダエンジンの努力もさることながら、ここ一発の勝負どころで100%以上の力を発揮してみせた山本の勝負強さが光ったQ1だったように感じた。
しかし、上位8台を決めるQ2では1分38秒台までタイムを伸ばすも、わずか0.1秒届かず9位でノックアウト。本来目標としていたポールポジションには程遠く、ホンダ勢最上位も新人の野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に奪われてしまうという悔しい結果に終わってしまう。ただ、本人は悔しい表情をみせながらも気持ちは前向き。「今できることは全てやりつくしたし、Q2のタイムアタックも特にミスはなかった。それでも、このポジションというのは悔しいけど、明日は必ず巻き返す」と決勝レースでの挽回を誓った。
【レース序盤は健闘をみせるも、新たな課題が……】
迎えた13日(日)の決勝レース。9番手スタートの山本は前半からトヨタエンジン勢を相手に奮闘する。スタート直後すぐにポジションを一つ上げると、これまでライバルに大きな遅れをとっていたのが嘘だったかのようなペースで周回。順位を上げるまでにはいかなかったが、着実に前のマシンを視界に捉えた状態を維持した。もちろん、これも夜を徹してマシンを良くしようとしたTEAM無限のメカニックやホンダのエンジニアの努力があったからこそ。もし、金曜専有走行での3秒差が改善されていなければ、あっという間に後続の餌食になっていたことは明白。ここでもホンダ勢を代表するチームの力とチャンピオン山本尚貴の底力を垣間見ることができた。
しかし、新型車両での初レースということもあり、思わぬトラブルが山本を苦しめる。10周目を過ぎたあたりからタイヤの消耗で急にマシンバランスが乱れ、ペースがガクッと落ちてしまう。朝のフリー走行でも似たような症状が見られ、序盤からリアタイヤのマネジメントには気を遣っていたというが、それを食い止めることができなかった。ちょうど平川亮(KYGNUS SUNOCO Team LeMans)とバトルをしていたこともあり、順位を守るため予定より早い13周目にピットイン。チームの迅速な作業にも助けられ、アドバンテージを持ってコースに復帰を果たす。その直後にスピンを喫しコース上にマシンが停車。安全確保のためにセーフティーカーが導入される。展開にも助けられた山本はレース後半に一時4位を走行。表彰台のチャンスも見えるポジションまで追い上げた。
ただ、ピットインの予定を早めた分、後半スティントでは30周にわたって同じタイヤを使用しなければならない。ここでも前半同様に交換後10周過ぎから急激にバランスが悪くなり、ペースダウン。後ろからくる平川や、石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)らに追い詰められ、防戦一方の展開に。残り20周という長い距離を考えると順位を守るのは不可能に近い状況だったが、それでも山本は「カッコ悪いレースはしたくない」と歯を食いしばってポジションをキープ。満員に埋め尽くされたグランドスタンドでは、その様子を手に汗握って見守るファンの姿も少なくなかった。
最初はオーバーテイクボタンも使って何とか後続を振り切っていたが、残り10周を切ったところで5回全てを使用。タイヤの状態もさらに悪くなってしまい、38周目のスプーンカーブでたまらずコースオフ。一気にポジションダウンを余儀なくされ、結局11位でチェッカー。残念ながら、最低限の目標と考えていたポイント獲得を果たすことは出来なかった。
パルクフェルメに戻ってきた山本。以前までなら、こういった悔しいレースをしてきた時はヘルメットも脱がず一目散にピット裏まで戻ってしまうのだが、今回はその気持ちを抑え、真っ先にエンジニアの元へ歩み寄りレース内容やマシンの状態を振り返り、議論する姿が見られた。その後もピットに戻って手塚監督、ホンダのエンジニアを囲んで日暮れ近くまでミーティング。もちろん、昨年は一度も見られなかった姿だった。その表情は悔しさが前面に出ているというよりも、今回完走して得たデータを活用して、次のレースでどれだけ改善できるか?を早くも模索しているようだった。
「ホンダ勢トップでフィニッシュ出来なかったことが本当に悔しい。でも、こうして250kmを2台そろって完走したことにより、得られたこともたくさんありましたし、新しく見えた課題もあります。そして、冬のテストとは異なり前半はトヨタエンジン勢にしっかり食らいつくことができました。今回は厳しいレースウィークになってしまいましたが、次につなげることが出来たレースになったと思います。次回の富士までにしっかり対策を施して、決勝ではレース全体のラップタイムの平均をさらに向上させられるようにしたいです。正直、かなり厳しい状態にありますし、本来の早さを取り戻すまでに少し時間はかかりますが、必ず挽回します。もう少し待っていて下さい。」
【わずか3日間でハッキリ見えた改善、それを実現した山本のリーダーシップ】
今回のレース、ただ“順位”という数字だけを見れば11位と振るわなかったし「昨年のチャンピオンが何をやっているんだ」と思った方も少なくなかっただろう。ただ、前述でも触れた通り、トップから3秒遅れから始まった週末を、予選では1秒差につめ、テストではラップあたり2秒の差があったにも関わらず決勝レースでは一時的に上位陣と同じようなペースで周回。基本的にレーシングカーはチーム本拠地のファクトリーでベースのセッティングを行い、サーキットはコンディションに合わせて、わずかな微調整程度しか行わないのが普通。時間的なことを考えてもマシンセッティングを大幅に変えることは難しいのだ。そのため、この3日間でこれだけマシンが見違えるように変貌を遂げるのは実は稀なケースと言っても過言ではないかもしれない。
しかし、エースである山本が率先となってチームを動かし、セッティングにも細かい部分までリクエストを出し、それに合わせてチームもマシンを仕上げた。この地道な作業が想像以上にパフォーマンスが上がった状態で決勝グリッドに並ぶことができたのだ。今はベースのポテンシャルで他陣営より劣っているため大きな結果は望めないかもしれないが、ベースが良くなってくれば、間違いなく強力な武器になることだろう。
結果では、あまり注目されないポジションではあったが、週末のプロセスという点ではチャンピオンの底力を垣間見た3日間だった。そして、これを経て臨む5月の第2戦富士。ホンダ勢にとってはアウェイの地になるが、そこで今度はどれくらい進化した1号車をドライブしてくれるのか?非常に楽しみだ。
『記事:吉田 知弘』
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