2013年のF1第11戦ベルギーGP。予選は雨により大混乱の展開となったが、決勝レースは一転して2番手からスタートしたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)のワンサイドゲームとなった。1周目のケメルストレートでルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)を抜いてトップに立つと、そのまま独走。今季5度目のトップチェッカー。今回も圧勝に終わったかのように見えたが、実はベッテルにとっては決して“楽勝”という内容ではなかった。
【9番手スタートのアロンソ。遥か前方のベッテルを目指し猛追】
スタート直後にトップを奪ったベッテルが圧倒的な速さでリードを広げていく一方、前回ハンガリーGPでランキング3位に落ちたフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)も、それに匹敵する速さで追い上げていた。1周目で一気に4位まで上がると4周目にニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)をパスし3位。さらに1回目のピットストップを終えた15周目でハミルトンも抜き去り2位に浮上した。この時点でベッテルとの差は7秒。今の彼の勢いを考えると自力で逆転するのは不可能に近かったが、アロンソは現状で出せる力を限界いっぱい引き出し猛追。1分53秒前半のペースで周回を重ねた。これは後ろのハミルトン以下の集団を1周あたり約0.5秒近く引き離していく速さで、25周(彼を抜いてから10周後)終了時点での両者の差は5.2秒にまで広がった。
アロンソとしては、とにかく自身が出来る事を全てやり尽くし、決して追いつけなくてもベッテルにプレッシャーを与えようという考え。ベッテル側にミスやトラブルが出ない限り逆転優勝は難しい状況だったが、アロンソの地道な努力は、少なからずベッテルに影響を与えた。本来なら若干ペースを落としてタイヤやエンジン、ギアボックスの温存したかったベッテルとレッドブル陣営。序盤に争っていたハミルトンとのラップタイムの差を考えると、それを行っても十分に勝てる見込みはあったが、対アロンソで見てみると、ペースダウンをしてしまうと終盤に逆転される可能性がでてきてしまう。そのため、中盤から終盤まで逃げ切るためにプッシュし続けることを強いられてしまったのだ。
結果的にベッテルが集中して好タイムを連発して逃げたことで2人の差は徐々に広がってき、最終的には16.8秒差でチェッカーを迎えた。この「16.8秒」という数字だけを観れば圧勝だったかのように思ってしまう方も多いだろう。だが、実際にはアロンソが頑張ったことにより、温存したかったエンジンやギアボックスを酷使せざるを得なかったレッドブルチーム。最終的に勝ったのはベッテルではあるが、ここでの影響が次回のイタリアGP以降、もしかすると何らかの形で出てくる可能性が数%はありそうだ。シーズンを通して考えれば、「圧勝」ではなく「引き分けに近い勝ち」だったのかもしれない。
【一番何かが起きそうな“46ポイント差”】
これにより、ドライバーズランキングはベッテルが197ポイントで首位キープ。アロンソも151ポイントに伸ばして、今回リタイアしたキミ・ライコネン(ロータス)から2位を奪い返した。その差は46ポイント。単純計算すると、ベッテルが2戦連続で0ポイント(リタイア)に終わり、アロンソが2連勝して逆転できる差。今年のレッドブル陣営の安定感を考えると、非常に大きな差に思えるし、いよいよベッテルの4連覇が見え始めてきたと言っても過言ではないだろう。
ただ私は、この46ポイントは「大きな差」ではないと思う。昨年もチャンピオン争いを繰り広げていた2人。その時はアロンソがリードしベッテルが追いかけるという展開。シーズン中盤で最大44ポイントの差がつき、アロンソ絶対有利という流れだったが、ベルギーGPや日本GPで他車と接触する不運なアクシデントで2度も0ポイント・レースを作ってしまい、最終的にベッテルが逆転で王座に輝いた。昨年のアロンソがそうだったように、今年のベッテルにも「今後、何も起きない」という保証はどこにもない。そして、一番油断しやすいのが今回のような一定量のリードを築いている時。だからこそ、今アロンソとしてはプレッシャーをかけ続けて「まさかの何か」が起こるチャンスを作り出すことが必要なのだ。
一発の速さでは劣っているものの、今回のような粘り強く追いかけていくレースを続けることによって、万が一ベッテルに何かアクシデントが起こった時にトップに立てるポジションで走っていることができれば、終盤戦で我々も想像すらしていない“ミラクル”が起こるかもしれない。特に次回はフェラーリの地元イタリアGP。聖地モンツァに詰めかけるフェラーリファン“ティフォシ”の声援は間違いなくアロンソたちにとって大きな追い風になるだろう。
また、今回はブレーキトラブルでリタイアしてしまったライコネンの走りにも今後は注目だ。ランキング4位に後退してしまったが、前回ハンガリーGPではタイヤを上手く温存してピットストップを1回減らし、最終的にベッテルを逆転してみせた。序盤戦はレース戦略の違いで勝負に挑んでも逃げ切られてしまうことが多かったが、それも中盤戦になって精度が増し、結果にもつながってきている。この後も彼が得意とする鈴鹿や昨年優勝したアブダビなどが控えているため、再浮上のチャンスは十分にある。そして、ランキング3位に浮上したハミルトンは4戦連続でポールポジションを獲得。ハンガリーGPでも今季初優勝を飾り、シーズン序盤では苦しんでいた決勝での走りも、少しずつ形になりはじめてきている。
このままベッテルが逃げ切るのか?それとも、アロンソやライコネン、ハミルトンといったライバル達が終盤に大逆転をみせるのか?ポイント差は確かに大きいが、まだ2013年のチャンピオン争いの勝敗は決していない。
『記事:吉田 知弘』
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