スタートからゴールまで波乱続きだった今年のル・マン24時間耐久レース。アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ/マルセル・ファスラー組の1号車アウディによる総合3連覇に注目が集まった1戦だったが、実際に勝利したのはトム・クリステンセン/ロイック・デュバル/アラン・マクニッシュ組の2号車アウディだった。今週の「Point of the Race」は、上位陣もトラブルやアクシデントで苦しめられた中、順調に24時間を走り切って優勝を飾った2号車アウディのレース運びについて振り返っていこうと思う。
【最強アウディ勢に度重なるトラブルが発生。総合優勝の望みは2号車へ】
スタート直後から長時間に及ぶセーフティカー先導走行が続くなど、いつもとは変則的なレースとなった今回のル・マン。予選でポールポジションを獲得した2号車は、一時4番手まで順位を落とすものの、レース再開は一度抜かれたトヨタ勢を抜き返し2位に浮上。トップ3をアウディ勢が独占しナイトセッションを迎えようとしていた。
昨年は4台全車が完走し表彰台を独占した最高アウディ陣営。今年も盤石の態勢で挑んだが、スタートから6時間を過ぎたところでエースの1号車にトラブルが発生。加えてマルク・ジェネ/ルーカス・ディグラッシ/オリバー・ジャービス組の3号車もアクシデントに見舞われるなど、次々とチームメイトが後退。特に1号車はマシン修復に43分もかかり、トップから11周遅れ。完全に優勝争いから脱落してしまった。また昨年は早々に姿を消したライバルのトヨタ勢も今年は信頼性を改善し2台でトップを走っていた2号車を猛追してきた。
1・3号車が脱落したことにより、アウディ側は2号車1台で総合優勝争いをしなければいけない状態。数的には不利だが陣営のアウディチームとしての総合4連覇がかかっているだけに、簡単に引き下がるわけにもいかない。全ての期待とプレッシャーを2号車が背負うことになった。
【深夜に“2号車エース”ロイック・デュバルが魅せた激走】
トヨタ勢との一騎打ちとなった2号車アウディ。さらにマシンの数だけではなくレース戦略面でも不利な状況にあった。アップデートされたトヨタTS030 HYBRIDは、搭載している燃料タンクの容量がアウディR18 e−トロン クワトロよりも大きく、1スティント(次のピットインまでに走行)あたり走行距離もトヨタ勢の方が多く走れる計算になる。実際のピットタイミングをみてもアウディは1スティント10周ペースなのに対しトヨタは1スティント12周。これだけで見るとたった2周しか変わらないが、これを24時間(約370周)続けていくと、最終的にピット回数が4〜5回多くなってしまう。ということはピットでのロスタイムが約7分(およそコース2周分)かかってしまうため、ロスタイム分をなんとかしてコース上で逃げて稼がなければいけない。
1周のラップタイムという点では予選からトヨタ勢を上回っていたので問題はなかったが、彼らも決勝重視のセッティングの合わせ込みを入念に行なってきたため、思うように引き離すことができないまま、レースの半分を経過しようとしていた。
少しも気を抜くことが出来ない僅差でのレースが続く中、2号車を助けたのが日本のスーパーフォーミュラでも活躍するロイック・デュバル。スタートから3時間20分が経過したところでマクニッシュからバトンを受け取ると6スティント(約4時間)も連続で走行を担当。その間にチームメイトらにトラブルが発生するが、冷静なレース運びでトップを死守。その後、夜明け前のタイミングで再びステアリングを握ると3分26秒台のラップタイムを連発し、確実にトヨタ勢との差を広げていった。こうしてレース開始18時間の段階で2位の8号車トヨタに対し1周以上の差をつけることに成功。今年のトヨタは本当に速く、アウディ勢としても余裕がないギリギリの状況だったが、自身初のル・マン24時間優勝を目指すディバルの激走がきっかけで、2号車はさらなる逃げを打つことができたのだ。
【天候変化に泣かされたトヨタ勢と“経験を活かした”#2アウディ】
快調に周回を重ねるアウディに対しレース終盤に2周差に広げられてしまったトヨタ勢。レース序盤からアクシデントが多発し度重なるセーフティカーが導入。これによりトヨタが目論んでいたピット戦略は練り直しが求められ、レース開始から18時間を過ぎた時点では、完全にアウディペースの展開になってしまっていた。さらに終盤は目まぐるしく天気が変わり、大混乱の展開に。2位の8号車はペースダウンを余儀なくされた他、3号車アウディとの表彰台をかけた争いをしていた7号車は濡れた路面に足元をすくわれクラッシュ。なんとかピットまで戻ってくることに成功したものの、大きくタイムロスを喫してしまった。
ライバルが天候変化に混乱している中、トップを走る2号車はル・マン史上最多8度の優勝経験を持つトム・クリステンセンが乗り込み、この難しいコンディションにベテランらしい対応を披露。また、これまでデュバル、マクニッシュらが地道に築き上げてきてくれた2周というアドバンテージを有効に利用し、必要に応じてレイン(雨用)/スリック(晴れ用)への交換を迅速な判断で行った。最終的に1周差まで追い詰められてしまったが、大荒れのレースで最後まで大きなトラブル・アクシデントもなく確実に走行。23日15時、レース開始から24時間が経ち、ついにトップチェッカーを受けた。
【3人がそれぞれの場面で持ち味を発揮した#2アウディの24時間】
デュバルの好走でライバルを引き離し、大ベテランのクリステンセンは天候変化など難しいコンディションで確実にチェッカーに向けて周回を重ねた。さらにル・マン優勝経験のあるマクニッシュも混乱しやすいスタートドライバーを担当。深夜に突然降りだした大雨の時は、プッシュすることをやめて確実に走ることに専念。そこで守った分は、またデュバルが攻めてクリステンセンに繋いでいく。3人それぞれの持ち味が存分に発揮され、それぞれの場面でしっかり発揮されていた。これが最終的にトヨタ勢との一瞬も気が抜けないトップ争いの中で1周差をつけて勝利できた要因だったのかもしれない。クリステンセンは史上最多記録を伸ばし9度目のル・マン制覇。ディバルにとっては伝統の一戦で念願の初優勝を飾った。
【次はWECチャンピオン獲得へ】
ル・マンという大舞台は終わったが、彼らの挑戦はまだ続いている。この勝利で50ポイントを稼いだクリステンセン/ディバル/マクニッシュの3人はWECのドライバーズランキングでも94ポイントでトップに浮上。1号車の3人に対し30ポイントの差をつけた。今回はレース距離が長いため通常の2倍の点数(1位25pts→50pts)が与えられる。そのため、ここル・マンの結果はシリーズチャンピオン争いにも大きく影響する1戦なのだ。その中で2号車はポール・トゥ・ウィンという完璧な内容で終えられたことで、後半戦に向けての主導権を握ることになった。次回の第4戦サンパウロ(ブラジル)は約2ヶ月半の9月1日。少し期間が空いてしまうが、これまで最強と言われていた1号車を倒す最大のライバルが同じチーム内から現れたことにより、今年のチャンピオン争いは一層面白い展開になっていきそうだ。
『記事:吉田 知弘』
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