2013年のF1第7戦カナダGPは、ポールポジションからスタートしたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)が独走。ライバルに全く手を出させない完璧なレースで幕を閉じた。彼が一番得意とする「先行逃げ切り」のレース展開に持ち込んでの優勝。こうして聞くと簡単で単調な内容だったように思われてしまいがちだが、今回に関しては王者ベッテルの腕と、最強レッドブルチームの技が光った結果の「先行逃げ切り」だった。今回のPoint of the Raceでは王者ベッテルの独走劇について、振り返っていこうと思う。
【序盤の5周が勝負!】
予選でポールポジションを勝ち取ったベッテル。今回は2番手のルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)が優勝争いでのライバル。まず差をつけたのがスタート直後の5周。1コーナーでトップを死守すると、そこから得意の“先行逃げ切り”に持ち込んでいく。1周目で2秒引き離し、DRS稼働圏外に引き離すと、2周目・3周目とハミルトンよりも速いラップを刻み、5周終了時点で4.2秒の差をつけ序盤から主導権を握っていった。
[スタート直後5周のベッテルとハミルトンのラップタイム比較]
このスティント序盤での集中力はミディアムタイヤに換えた直後にも発揮される。ハミルトンよりも3周早い16周目にピットインしたベッテル。今回のミディアムタイヤは熱の入りがスーパーソフトに比べると時間がかかるため、即効性に欠けて新品状態でのラップタイムが今ひとつ伸びないと言われていた。それでもベッテルはピットアウト後の数周で1分19秒前半という好タイムを連発。ここでも後続に対し“大きな差”をつけるきっかけとなり、貯金を一気に13秒にまで増やすことに成功した。このようにベッテルは、ただ“PPスタートでレースの主導権が握れる”から速かったのではなく、70周ある決勝レース中のうち、重要な数周を特に集中してベストタイムを連発。ここで流れを作り出して、後続に対して大きなリードを築いていったのだ。
【ドライタイヤのテストが完璧でない中で迎えた“ぶっつけ本番”の決勝】
実は、ここまでの流れいつもの先行逃げ切りパターンと全く同じ。「また、いつもの勝ちパターンでつまらなかった」と思っていらっしゃる方も多いだろう。しかし、ここまでの展開に持ち込むのは、そうとう難しい状況にあった。今週末のカナダGPは雨絡みの不安定な天候。ドライで走行できたのは金曜日の実質的にフリー走行2回目のみ。しかも天気も曇りで気温・路面温度ともに10℃ちかく違う。実際にスーパーソフト、ミディアムタイヤがレースでどれくらい使えて、どんな性能変化が起きていくかというのは全くの未知数と言って良い状態。さらにタイヤの性能変化に対応したマシンセッティングの確認も決勝レース時のようなコンディションでしっかりと確認できなかったため、まさに“ぶっつけ本番”でのスタート。
その限られた条件下でベッテルがみせた今回のパフォーマンス。やはりベースのマシンの完成度が高さと、それを操るベッテルとの相性の高さが証明したレース展開だった。この要素は、今後のシーズン中盤戦に向けて確実に有利に働いていくことだろう。
【どんなにリードしていても“攻め続ける”レース】
レースの折り返しに当たる35周終了時点で2位ハミルトンに対し16.1秒もの大量リードを築いていたベッテル。あとは、残り35周を確実に走って、その座を守り切るだけ。しかし“独走状態が一番こわい”ことを知っている現王者は、終盤まで全く手を緩めようとしなかった。
39周目に1分17秒台に突入すると、その後もファステストラップを連発。52周目には勢いの余りターン1でコースアウトするシーンが見られるほどだった。普段から前半で大量リードを築いたレースは終盤まで攻め続けるベッテル。時にはあまりの速さにチームから無線で「ペースを落とすように」と注意を受けることもあるが、ここまで攻めるのにはちゃんと理由がある。
2位以下に対し10秒以上のリードを築き、少々ペースを落として確実に走っても間違いなく追いつかれることがない。逆に、こういう状況になると“気の緩み”が出てしまい、それがミスに繋がることが多い。また大量リードを維持するべく“守りの走り”をした時も同様。ここジル・ビルヌーブサーキットは、ランオフエリアまでの距離が近く、ほんの些細なミスがクラッシュにつながってしまう。「クラッシュ=リタイア=ここまでの大量リードはもちろん台無し」になってしまう事をよく知っているベッテルは、集中力を切らさないために自分自身にムチを入れてプッシュし続けたのだ。
“攻撃は最大の防御なり”。これを当たり前のようにやってのけてしまう現王者の強さが光ったレースだった。
【“史上3人目の4連覇へ”価値ある25ポイント】
今回の1勝で25ポイントを獲得。トータル132ポイントに伸ばし、ランク2位に浮上したフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)に対し36ポイントのリード。チャンピオン争いでも徐々に独走状態を築き始めている。「雨の予選」「晴れの決勝」という異なるコンディションの中で行われたカナダGPの週末を完璧な形で締めくくったベッテル。そのレース内容を振り返ると“史上3人目の4連専属チャンピオン”も少しずつ見え始めてきた気がする。もちろん、この話をするのは時期尚早かもしれない。だが、ここまでのシーズン戦を見ても勝つチャンスのあるレースをミスで取りこぼしているライバル達に対し、ベッテルは苦しいレースでも失点は最小限に抑えており、7戦を終えてリタイアはなく全て4位以内でチェッカーを受けている。この流れでいけば、4連覇の可能性も確実になっていくだろう。
このまま勢いにのって今シーズンもベッテルが勝ち取ってしまうのか?それとも、ライバル達が待ったをかけるのか?次回の第8戦イギリスGPは今シーズンの“ターニングポイント”のレースになる気がする。
『記事:吉田 知弘』
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