先日からお送りしている2012年のF1総集編。過去最多の20戦、その全レースともに見逃すことが出来ないほど、中身の濃いシーズンだった。今回お送りする第2弾は大混戦の中からアロンソが2勝目、3勝目を手にしてポイントランキングでリードを築き、それを追いかけていくベッテル。この2人が集団から抜けだし始めたシリーズ中盤戦を振り返っていきたいと思う。
【母国レースで涙の勝利!明暗分かれたヨーロッパGP】
7戦を終えて7人の勝者が誕生するという、前代未聞の大混戦となった2012年のF1世界選手権。舞台は第8戦ヨーロッパGP(バレンシア市街地コース)を迎えた。予選でポールポジションを勝ち取ったのはセバスチャン・ベッテル(レッドブル)。一方、母国レースとなったアロンソは予選Q2でまさかの敗退、11番手から挽回を誓った。
スタート直後からもベッテルは順調に後続を引き離し、昨年は当たり前の光景だった「独走状態」をあっという間に築いた。この時、誰もが「この勢いだとベッテルがタイトル争いをリードしていきそうだ」と感じさせるような走りだったが、レースはこれで終わらなかった。
レース中盤、後続でアクシデントが発生。マシンの破片回収のためセーフティカーが導入され、20秒以上築いていたベッテルの貯金は一気にゼロに。レースが再開すると、背後に迫っていたのは、なんとアロンソだった。序盤から少ないチャンスをものにして順位を上げ、34周目の再スタートで2位に浮上。今季初めて「ベッテルvsアロンソ」のトップ争いが展開されようとした瞬間、ベッテルが急に失速。マシントラブルでまさかのリタイヤを余儀なくされてしまった。
11番手スタートから大逆転でトップに立ったアロンソ。そのまま安定した走りでチェッカーを受け、2006年スペインGP以来、自身2度目の母国レース制覇を成し遂げた。これには詰め掛けたスペイン人ファンも大興奮。ウイニングランではコースマーシャルから国旗を受け取り、表彰台でのスペイン国歌が流れると感極まって号泣。彼にとって今季の中で思い出に残るレースになったとともに、3度目のチャンピオン獲得に向け、1歩リードする今季2勝目となった。
【敵地ドイツでアロンソ3勝目、王者ベッテルは不運続き】
母国スペインで開催されたヨーロッパGPで今季2勝目を飾ったアロンソ。続く第9戦イギリスGPで今季初のポールポジションを獲得。決勝では終盤にマーク・ウェバー(レッドブル)の先行を許し2位となったものの、チームとともに確実に勢いをつけていた。そして第10戦ドイツGP。ここは現王者ベッテルにとって母国レース。ライバルであるアロンソにとっては“完全アウェイ”1戦だったが、そんなことは全く関係ないかのように雨の予選を制し2連続ポールを獲得した。
決勝でも序盤はベッテル、終盤はバトンに背後まで迫られる場面があったが、ベテランらしい落ち着いた対応をみせトップを死守。敵地ドイツで今季3勝目を挙げ、ヨーロッパGPで抜け出したポイントランキングのリードをさらに伸ばした。
一方、母国での初勝利を目指したベッテルは、終始アロンソの後ろで我慢のレースを強いられた。ジェンソン・バトン(マクラーレン)に逆転され3位に後退。終盤に追い上げて再度抜き返して2位でフィニッシュしたが、コース外エリアを走行してバトンを抜いていたことが判明。レースタイムに20秒が加算されるペナルティを受け5位に転落。またしても明暗別れる結果となった。
この時点で両者の差は44ポイント。仮にベッテルが2勝してもアロンソが2戦連続でリタイヤなど0ポイントにならない限り逆転出来ないようなポイント差だ。まだシーズンの半分が終わった段階とは言え、ベッテルにとってはあまりにも大きな壁であり、逆にアロンソにとっては大きなアドバンテージだった。
★★今季のターニングポイント(1)★★
【アロンソの独走が崩れ始める“きっかけ”となった多重クラッシュ】
第11戦ハンガリーGPではルイス・ハミルトン(マクラーレン)が今季2勝目を挙げ、アロンソとのポイント差を詰める。それでも40ポイント以上の大量リードを築き、ランキング首位のまま後半戦を迎えたアロンソ。過去最大の20戦で争われる今シーズンを勝ち抜くためには、前半同様に好結果が必要。その最初のレースとなるベルギーGPで最低でもポイントを獲得し幸先良いスタートを切りたいところだった。しかしスタート直後、後方のロマン・グロージャン(ロータス)がきっかけとなり多重クラッシュが発生。コントロール不能で突っ込んできたロータスのマシンに追突され、まさかの“もらい事故”で0周リタイヤを余儀なくされてしまった。
一方のベッテルは予選で11位とQ2落ち。後半戦も苦戦が強いられるのかと思われたが、この多重クラッシュを上手く切り抜けると、その後も着実なレース運びで2位表彰台を獲得。これで両者の差は24ポイントに縮まった。
確かにこのベルギーGPが再び混戦模様となっていた後半戦のきっかけとなったレースだったが、この直後のイタリアGPでベッテルもマシントラブルで0ポイントに終わっている。そのため、このレースがベッテルの大逆転に大きくは影響しなかった。逆にアロンソにとってはベルギーGP以降、このような(不運なアクシデント)形でポイントを取りこぼす事がなければチャンピオンは獲得できていたかもしれない。
★★今季のターニングポイント(2)★★
【ハミルトン、不運なリタイヤが続きタイトル争いから脱落】
アロンソが今季初の「0ポイント・レース」を演じてしまった事で、再び混戦の様相を呈してきたタイトル争い。第13戦イタリアGPではハミルトンがポール・トゥ・ウィンで今季3勝目をマーク。ランキング2位に浮上した。続く第14戦シンガポールGPでもポールポジションを獲得。スタートでも順当にトップを守りレースの主導権を握ると、一気にチャンピオン争いの舞台に上がってきた。
一方のアロンソは予選で手に入れた5番手から順位を上げることができず苦戦。ハミルトンにとってはポイント差を大きく縮めるチャンスだったが、予期せぬマシントラブルに見舞われてしまい痛恨のリタイヤ。一度は大きく見えてきた「2012年ドライバーズチャンピオン」が一瞬にして大きく遠のいてしまった。
これによりトップに立ったのはベッテル。前回イタリアGPではマシントラブルで0ポイント・レースを演じてしまい、アロンソとの差が広がってしまったが、再び逆転のチャンスが舞い込んできた。後ろにはバトンが迫っていたが最後までミスのない走りで今季2勝目をマーク。アロンソは3位表彰台を獲得した。
ご存知の方も多いかもしれないが、このシンガポールGPでの勝利を機にベッテルはアジアラウンドで4連勝。後々のアロンソを逆転するきっかけとなったレース。そこで彼に1位の座を明け渡したのが、3人目の王者候補だったハミルトンだったのだ。彼の脱落により、また一つチャンスを手にしたベッテル。今考えれば、シンガポールGPも2012年の“ターニングポイント”の一つだったのかもしれない。
次回の第3弾では小林可夢偉が3位表彰台を獲得した感動の日本GPを中心にシーズン終盤戦を振り返っていこうと思う。
『Photo:Pirelli』
『記事:吉田 知弘』
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