過去最多の20戦で争われた2012年のF1世界選手権。前年度王者のセバスチャン・ベッテル(レッドブル)を中心に今年は6人のチャンピオン経験者が顔を揃えるという、これまでに例のないほど大混戦のシーズンとなった。多くのファン・関係者の予想は的中し、8人のウィナーが誕生。チャンピオン争いも最終戦までもつれ込み、ベッテルがアロンソを3ポイント振り切って3年連続のチャンピオンを獲得した。まさに“群雄割拠”であり、様々な出来事があった2012年シーズンのF1を、改めて振り返っていこうと思う。
【王者ベッテルがいきなり苦戦!大混戦のシーズン幕開け】
昨年、19戦中11勝15PP(ポールポジション)と圧倒的な速さ・強さで2度目のチャンピオンを獲得したベッテル。今年もベッテルが開幕戦から強いと大半の方が予想していただろう。しかし3連覇という偉業を達成するのは決して簡単なことではなかった。3月17日(土)に行われた公式予選。いざフタを開けてみるとマクラーレン陣営がフロントローを独占。ベッテルは順当にQ3に進出したもののタイムが伸びず6番手に沈んでしまった。
翌18日(日)の決勝。なんとか挽回を試みたベッテルだが序盤から元王者ミハエル・シューマッハ(メルセデスAMG)に行く手を阻まれトップ争いに顔を出せない。レース後半に導入されたセーフティカーをきっかけに2位に浮上するも、レースが再開すると一気にプッシュして逃げていくジェンソン・バトン(マクラーレン)についていけず、いきなりの敗戦。「大混戦のシーズン幕開け」を告げるかのようなバトンの優勝だった。
【新しい力の台頭】
第2戦マレーシアGP。ここでも王者ベッテルはトップを奪うことが出来ず予選5位。さらに決勝では東南アジア特有の「スコール」で赤旗中断になるなど序盤から大混乱。その中で光る走りをみせたのがザウバーで小林可夢偉の同僚を務める若手セルジオ・ペレスだった。濡れた路面を味方につけ2位に浮上すると、トップのフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)に急接近。雨量が多い状態では圧倒的な速さをみせたが、雨が止み路面が乾き始めてきた後半は苦戦が強いられ、ペレスとの一騎打ちとなった。
レース終盤にDRS稼働圏内となる1秒以内まで近づくことに成功したペレス。KERSも使い抜きにかかるが、相手は2度のチャンピオンを経験しているアロンソ。若いペレスの気迫ある走りに全く動じずトップをキープ。結局、勝負を焦ったペレスが残り6周というところでコースオフ。アロンソが今季初勝利を手にした。残念ながら勝負には負けたものの、2位で初の表彰台を獲得したペレス。この後も若手とは思えないレース巧者な走りが毎レース発揮され、今季は3度の表彰台を経験。来季はマクラーレンに移籍する。
【ニコ・ロズベルグ、悲願の初優勝】
第3戦中国GP。ここでも新たなヒーローが誕生することになった。今回も大激戦となった予選。その中で頭ひとつ抜け出たのが、デビュー7年目のニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)。可夢偉も自己最高となる3番グリッドを手に入れ、注目を集めたがスタートでの出遅れが響き、決勝は10位に終わった。一方、スタートからトップを快走するロズベルグ。レース中盤は3ストップ作戦でペースを上げてきたバトンが追い上げてきたものの、2ストップ作戦を見事に完遂、悲願の初優勝を飾った。
2005年にGP2王者に輝くと2006年にウィリアムズからF1デビュー。最初は元チャンピオンであるケケ・ロズベルグ氏の息子として注目を集めていた。ルーキーイヤーから何度も上位に顔を出すなど存在感を出したレースが多かったが、肝心なところでミスしてしまい、いつも優勝を逃していた。ポディウムの中央でトロフィーを掲げ、雄叫びをあげ、サポートし続けてくれたファン・関係者に「7年分の恩返し」と言わんばかりの最高の笑顔をみせた。
【2年ぶりに復帰のライコネン、早くも今季初ポディウム】
昨年は毎回圧勝だった王者ベッテルが勝てない。3戦を終えて表彰台も開幕戦での1回のみと苦戦していた。史上最年少の3連覇に向けて、そして何より「カーナンバー1」を守るために、そろそろ勝ち星が欲しいところ。第4戦バーレーンGPでは、その意気込みが伝わるような走りで予選でポールポジションを獲得。決勝も順当に1位で1コーナーを通過。昨年は何度も見られた「先行逃げ切り」のレースになるかと思われたが、11番手スタートのキミ・ライコネン(ロータス)がベッテルの独走を許さなかった。
レース中盤にベッテルに追いつくと33周目にはDRS稼働圏内の1秒以内にまで迫ると、かつてのようなアグレッシブな走りで横に並びかけるライコネン。しかし今季初優勝をかけて何としても死守したいベッテル。新旧王者によるハイレベルなバトルが展開された。結局、3回目のピットストップで差をつけたベッテルとレッドブルチームが今季初優勝。悔しいレースとなったライコネンだったが、ブランクを感じさせない走りを披露した。
【老舗ウィリアムズが復活!マルドナードが初優勝】
南半球のオーストラリアで開幕し、東南アジア、中東と遠征続きだったF1。いよいよ各チームが本拠地を構えるヨーロッパラウンドへ舞台を移し“第二の開幕”を迎え、その初戦となるスペインGPでは“あの老舗チーム”が復活を遂げる快走を披露した。
予選でトップタイムを獲得したルイス・ハミルトン(マクラーレン)は予選後の燃料検査に引っ掛かりタイム抹消。代わりにポールポジションを手に入れたのはウィリアムズのパストール・マルドナードだった。スタートでアロンソに先行されるものの、冷静に食らいついていき途中のピットストップで逆転。終盤まで両者によるマッチレースとなったが、終始ミスのない走りで見事トップチェッカーを受けた。もちろんマルドナード自身にとっては嬉しい初優勝。そして何より、今では「古豪」と呼ばれるようになってしまった名門ウィリアムズが、2004年ブラジルGP(ファン・パブロ・モントーヤ)以来となる約8年ぶりに優勝を飾った。
1980〜1990年代で9度のコンストラクターズチャンピオンを獲得。当時は最強チームとして常にライバルの目標とされてきたウィリアムズ。しかし2004年の優勝を機に長い氷河期に突入。昨年は、ここ20年でワーストのランキング9位。いつの間にか“過去のF1で強かったチーム”というイメージが強くなってしまっていた。この時の勝利は、1990年代のF1を知るファンにとっては、嬉しく懐かしい1勝だったかもしれない。
【前代未聞、序盤の7戦で7人のウィナーが誕生】
ここまで5戦を終えて、異なる5人のドライバーが勝利。開幕前の予想通り「大混戦」を物語るシーズン序盤となった。この後、第6戦モナコGPでは予選でシューマッハが約6年ぶりのポールポジションを獲得するも、前戦スペインGPで受けたペナルティで5グリッド降格。これでマーク・ウェバー(レッドブル)が繰り上がって先頭からスタート。そのままトップを守りきり今季初勝利を手にした。続く第7戦カナダGPでは今季2回のポールポジションを獲得しながら勝利がなかったハミルトンが奮起。途中2回目のピットストップで作業に手間取り優勝のチャンスが遠のいてしまうが、鬼神のような追い上げで再びトップを奪い今季初優勝を飾った。
これで7戦を終えて7人の勝者が誕生するという、F1史上でも例がないほど大混戦で、まさに“群雄割拠”のシーズン前半となった。この時点では誰が抜け出していってもおかしくない状況だったが、次の第8戦ヨーロッパGP以降、開幕前は予想していなかった“あのドライバー”がランキングをリードしていくことになった。
こちらも見どころ満載だったシーズン中盤戦は、また次回の総集編でお届けしようと思う。
2012シーズン総集編(2):混戦から抜けだしたアロンソとベッテル
『Photo:Pirelli』
『記事:吉田 知弘』
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