【イベントレポ】取材後記:我々が忘れかけている「モータースポーツの“魅力”」

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Jリーグとフォーミュラ・ニッポンがコラボし、川崎フロンターレのホームである等々力陸上競技場でF・ニッポンマシンによるデモ走行イベントが6月30日に行われ、大盛況に終わった。普段は、なかなかモータースポーツと縁がない多くのJリーグファンが本物のレーシングカーが目の前を走り去っていく姿に大興奮していた。

私はこの日、デモ走行が始まる3時間前から現地入りして、フォーミュラ・ニッポンのPRブースやオープンピットの様子を取材した。いつものサーキットとは全く異なるJリーグの試合会場、周りを見るとフロンターレサポーターで埋め尽くされ、その雰囲気に圧倒されながらの取材だったが、今まで“忘れかけていた”ことを思い出させてくれる出会いがたくさんあった。

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実は私にとってJリーグの試合会場に行くのは今回が初めて。今までテレビでのサッカー観戦は何度もあるが、実際の試合会場では新しい発見がいくつもあった。今回の舞台は等々力陸上競技場。川崎フロンターレのホームスタジアムで対戦相手となるヴィッセル神戸の客席はごく一部。もちろんサポーターの数も雲泥の差、これは「ホーム」「アウェイ」という概念があるサッカーでは当たり前の事だ。

ただ、ひとつ感心したのは試合前の公式練習中、場内MCが「ヴィッセル神戸の選手・スタッフ・サポーターの皆さん!遠いところ等々力競技場にお越しいただきありがとうございます!」と歓迎の挨拶をすると、スタンドに詰め掛けたフロンターレサポーター全員がヴィッセル側のスタンドに向かって拍手で歓迎。「ホームチーム勝利のためにアウェイチームにはブーイングでプレッシャーをかける」という、私自身のサッカーに対する恥ずかしい固定概念は、一瞬にして崩れ去った。

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このように、実際にその場に立って体験してみないと分からない事が世の中にはたくさんある。今回、私がJリーグ試合会場で経験したのと同じように、等々力競技場を訪れた多くのサッカーファンも、初めて見たフォーミュラ・ニッポンのマシンに目を輝かせていた。

試合会場横のイベント広場「フロンパーク」に設けられたF・ニッポンのPRブース。実際にお子様限定でF・ニッポンマシンのコックピット(運転席)乗り込み体験も行われ、今まで見た事も触れたことのないレーシングカーを目の前に、訪れたフロンターレサポーターは興味津々。またスタジアムへの入場ゲート脇で設けられた塚越広大(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と中嶋一貴(PETRONAS TEAM TOM’S)のピットガレージ。目の前を通りかかったサポーターたちは足を止めて、携帯電話はデジタルカメラでマシンを撮影していた。本来なら会場内の座席に急ぎたいはずのサポーター達だが、中には釘付けになって離れようとしなかった。

また、デモ走行直前にエンジンの暖気も公開され、エンジン音を聞きつけたサポーターたちがガレージ前に駆け寄ってくるなど、今まで見たことのないレーシングカーの迫力に驚き、感動していた。

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[普段はモータースポーツに関わらないサッカーの報道陣も、目の前のマシンに釘付け(写真右)]

そして、いよいよ本番のデモ走行イベント。ピッチの外側にある陸上トラックを2周、もちろんタイヤ痕をつけるような激しい走行はできない。一貴と塚越は慎重に走行しながら、時にはエンジンを空ぶかしさせ、国内最高峰のモータースポーツカテゴリーの迫力を伝えた。およそ2分という、わずかな時間でのパフォーマンスだったが、マシンを降りた2人のドライバーに場内から「中嶋!」「塚越!」「フォーミュラニッポン!」と、フロンターレ、ヴィッセル両サポーターからコールが沸き起こった。本来、Jリーグの会場では「お呼び出ない」の我々モータースポーツ界が受け入れられ、その魅力を今まで縁のなかったサッカーファンに伝えられた瞬間だった。

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ただ、こういった事はモータースポーツファンにとっては「当たり前」になっている。現地観戦を重ねれば重ねるほど、目の前にマシンがあって、エンジンの暖気が行われ、目の前のあっという間に走り去っていく。サーキットでは「当り前の事」以外に適当な言葉が見つからないほど、日常的なことだ。

しかし、今回のように今まで縁がなかったサッカーファンにとっては、目の前に現れた光景は、きっと新鮮なものだった違いない。初めて見る本物のレーシングカーに釘付けになり、目を輝かせるファンを見て「モータースポーツには、ひと目で多くの人の心を掴む力がある」ということに、改めて気付いた。

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速く走るために洗練された“カッコいいマシン”
体の奥まで響き渡る“エンジンサウンド”
あっという間に目の前を走り去っていく“スピード”

既存のモータースポーツファンや関係者にとって“当たり前のこと”として、何の感情も抱かなくなっていた要素、それが『モータースポーツにしかない唯一無二の魅力』だったのだ。

現在、テレビ等のマスメディアでの露出が減り、F1を中心に国内外のモータースポーツの露出度は急激に落ちている。それと同時に国内レースはサーキットへの来場者が減少。「人気がなくなった」と悲観的になる人も少なくない。理由は色々あるかもしれないが、「モータースポーツの魅力を知ってもらう“きっかけ”さえあれば、今でも多くの人は振り向いて興味を示してくれる」という事実が、今回のイベントで証明されたことは間違いないと思う。

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今回のように、サーキット以外の場所でレーシングカーをデモ走行させることは非常に難しいが、少しでも“レースを知らない人たち”のもとへ、我々モータースポーツ界から歩み寄っていく事で、きっと以前のような盛り上がりをみせてくれるのではないかと思う。

大盛況に終わったデモ走行イベント後、私は現地で原稿をWebサイトに更新。作業を終えると、試合を終えて帰宅するフロンターレサポーターを見かけた。この日は残念ながら0-1でヴィッセルに敗戦。フロンターレサポーターとしては悔しい1日だったに違いない。しかし、その悔しさの中に“ほんの少しだけ”で構わない。試合前にフォーミュラ・ニッポンのマシンが走って「凄かった!」「感動した!」という思い出が残っていてくれれば幸いに思う。

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そして、、、もし機会があれば、今回のイベントをきっかけにレースに興味を持ってくれた人たちが、、、1年後でも、数年後でも構わないから、サーキットに足を運んでいただけると幸いだ。

その時は、我々モータースポーツファンが皆さんを温かく出迎えてあげよう。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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