2012年のF1第7戦カナダGPの決勝が10日、カナダ・モントリオールのジル・ヴィルヌーヴサーキットで開催された。
ポールポジションは今季2回目のセバスチャン・ベッテル(レッドブル)。2番手にルイス・ハミルトン(マクラーレン)、3番手にフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)と、現在のF1を引っ張る3人によるハイレベルな決勝レースが始まった。毎年混乱の起きるカナダGPのスタートだが、今回はアクシデントもなくベッテル、ハミルトン、アロンソの順で1コーナーを通過する。スタートから独走状態を築きたかったベッテルだが、ハミルトンとアロンソも現王者を逃がさず、3人とも約1.5秒ずつの間隔で周回を重ねた。
レースが動いたのは18周目。スーパーソフトタイヤが限界にきたベッテルが上位陣の中で一番早くピットイン、これをチャンスとみて2位ハミルトンがプッシュ。続く19周目にピットインし、ベッテルの前でコースに復帰する。これで暫定トップに立ったのはアロンソ。前回同様にタイヤの持ちが良いフェラーリマシンは19周目まで引っ張りピットに入る。
チームも素早いピット作業でアロンソを送り出し、ハミルトンとベッテルを一気に逆転しトップ浮上。しかし、今季初優勝に燃えるハミルトンがバックストレートでトップを奪い返し、ハミルトンがリードした形で第2スティントが始まっていく。
今回、ピレリタイヤはドライタイヤの中でも一番柔らかいスーパーソフトタイヤとソフトタイヤを選択。高速コーナーがなく、タイヤに対して大きな負担がかからないカナダGPでは、チーム・ドライバーによってタイヤ選択が分かれた。そんな中、11番手からスタートした小林可夢偉(ザウバー)は、スーパーソフトで24周まで引っ張るという変則的な作戦に出たものの、序盤からペースの遅いマシンに行く手を阻まれるなど、思うようなレース展開ができなかったが、終盤まで粘り強い走りをみせ、9位でフィニッシュした。
そして注目のトップ争い、レース中盤はハミルトン優勢で進んできたが、終盤に予想外の展開を迎える。18周目にソフトタイヤに交換を済ませ、タイヤ交換義務を果たしているハミルトンだったが、消耗による急激な性能低下を予想し、50周目に2回目のピットイン。再び新しいソフトタイヤに交換した。彼は同じようにベッテル、アロンソもタイヤ交換に入るだろうと踏んでいたが、逆に彼らは現在のタイヤを何とか持たせてレースを乗り切る作戦を選択。さらに2回目のタイヤ交換作業が手間取りタイムロスをしてしまったハミルトンにとって、今季初優勝に向けて大きなハンデを背負ってしまう事になった。
しかし、今回こそ優勝が欲しいハミルトンに「諦める」という選択肢は全くなかった。
鬼神のような走りで追い上げをはじめファステストラップを連発、最大で14.8秒あった首位アロンソとの差を毎周1秒以上詰めていく。一方、1回のみタイヤ交換で乗り切ろうとしたアロンソとベッテルは終盤になってタイヤの消耗が進みペースダウン。後方からすさまじい勢いで迫ってくるハミルトンに抵抗できない。62周目にベッテルをかわすと、すかさずアロンソの駆るフェラーリを追い詰め64周目のバックストレートで見事オーバーテイクを決め、再びトップを奪取した。
今季初優勝に向け逃げるハミルトンに対し、1ストップで我慢し続けたアロンソとベッテルはタイヤの消耗が進み失速。ベッテルは63周目にタイヤ交換を決断したが、アロンソはコースに留まる事を選択。しかし後方から追い上げてきたロマン・グロージャン(ロータス)とセルジオ・ペレス(ザウバー)に交わされ、表彰台を逃してしまう。
怒とうの追い上げでトップを奪って以降、そのまま逃げ切ったハミルトンがトップチェッカーを受け、2007年に初優勝を決めた思い出の地モントリオールで嬉しい今季初優勝を決めた。
2位には最後の最後で大逆転したグロージャン、3位には可夢偉の僚友ペレスが入り、それぞれ2回目の表彰台を経験した。
今年のF1は、過去に例を見ないほど短期間で多くの主役(勝者)が誕生している一方で、2007年のデビュー以来ほぼ毎年に渡ってチャンピオン争いに絡んできたハミルトンは6戦を終えて勝利なし。おそらく、一人取り残されたという感覚を覚えていただろう。
「自分達は勝つ力を持っているはずなのに勝てない」。レースを重ねるごとに焦りが増していったハミルトンは、気が付くとチームに対して批判的なコメントをするようになり、長年一緒に戦ってきたマクラーレンと決別し他チームへの移籍話があるという噂も流れ始めていた。
そんな中、再び舞い込んできた今季初勝利へのチャンスに「今度は絶対に勝つんだ!」という強い覚悟と、チームの戦略を信じて最後まで諦めずに攻めきったハミルトンが、念願の今季初優勝を手にした。
これで7戦が終了しウィナーは7人という前代未聞の大混戦。ポイントランキングでもハミルトンが一気にトップに浮上し、誰も予想がつかないシーズン中盤戦へと突入する事になった。
次回のF1は、第8戦ヨーロッパGPが6月22~24日にスペインのバレンシアで開催される。
『記事:吉田 知弘』
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