2012年のF1世界選手権は、舞台をヨーロッパに移し第5戦スペインGPを迎えた。土曜日に行われた公式予選では、ルイス・ハミルトン(マクラーレン)が1分21秒707で今季3度目のポールタイムを記録したが、燃料規定違反により予選タイム抹消。これによりデビュー2年目のパストール・マルドナード(ウィリアムズ)が繰り上がりで初ポールポジション、母国レースで期待が集まるフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)が2番手からスタートした。
スタートでは、両者ともに好ダッシュをみせるが1コーナー手前で並びかけたアロンソがホールショットを奪う。今回、予選タイムを抹消されたハミルトンを始め、同じマクラーレンのジェンソン・バトン、前戦バーレーンGPで優勝したセバスチャン・ベッテル(レッドブル)らが予選同様に苦戦する中、母国GPで気合いが入るアロンソが独走するかと思われたが、マルドナードは逃げるアロンソにしっかり食らえ付いていく。
アロンソが逃げ切れないままレースが進んだレース中盤、トップ奪還のために追いかける側だったマルドナードが動く。すでに1回目のタイヤ交換をアロンソが10周目、マルドナードが11周目に終えている。しかし2回目のタイヤ交換はラップタイムのバランスとアロンソとの間隔を計算し、マルドナードが先に動いた。24周目で2回目のタイヤ交換を済ませ新品タイヤを手に入れたマルドナードは26周目に1分27秒906とコース上で最も速いペースで周回、同じ周にタイヤ交換を行ったアロンソを見事逆転し、再びトップに躍り出た。
そこから一時は7秒以上のリードを築いたマルドナードだが、先にタイヤ交換をしている分、タイヤの消耗も早いタイミングで訪れてしまい、徐々に母国優勝を狙うアロンソに追いつかれる。
そして41周目、4.8秒まで詰められたところでマルドナードが3回目のタイヤ交換のためにピットイン。これにより自動的にアロンソがトップに立つが、アロンソも直後の44周目にタイヤ交換を行い、2人の位置関係はそのまま。しかし、序盤から3位を走っていたキミ・ライコネン(ロータス)がレース終盤まで3回目のタイヤ交換を我慢し走行。これによりペースが上がらないロータスマシンに引っかかってしまったマルドナードは、一気にアロンソに迫られ、再びトップを手に入れたときには一時7秒以上あったリードが1.5秒を切っていた。
母国レースで自分を応援してくれる多くのファンがスタンドに詰め掛けているアロンソ。何が何でもマルドナードを抜いて母国優勝を飾りたいところだったが、元王者の度重なるプレッシャーに見事耐え抜いたマルドナードが、最後までトップの座を譲ることなく、トップチェッカー。デビュー24戦目で初優勝を飾った。
ベネズエラ人がF1で優勝を飾るのは史上初、さらにウィリアムズチームにとっても2004年ブラジルGP(ファン・パブロ・モントーヤ)以来、約8年ぶりの快挙となった。
1980~1990年代に9度のコンストラクターズチャンピオンを獲得し、一時“最強チーム”としてライバルたちの目標とされてきたが、2004年ブラジルGPの優勝を機に、チームは長い氷河期に突入してしまった名門ウィリアムズ。
“過去に強かったチーム”
ここ数年の低迷により、このようなイメージが強くなってしまっていた古豪チームが、約8年ぶりに表彰台の中央に帰ってきた。
また、日本の小林可夢偉(ザウバー)は予選では見事Q3に進出するも、油圧系トラブルで最後のセッションに出走できず9位からのスタートとなった。決勝では大きなミスもなく徐々に順位を上げていった可夢偉は、60周目にニコ・ロズベルグを抜き5位に浮上。前回バーレーンGPでの不調が嘘だったかのような快走で、自己最高タイの5位でフィニッシュ。今季3度目のポイント獲得となった。
5戦が終了し、5人のウィナーが誕生している今年のF1世界選手権。これほど勝者が代わるシーズンは今までに例がないと言っても良い。ヨーロッパラウンドに入って強さを取り戻すと見られていたレッドブルやマクラーレンといったトップチームの低迷と同時に、スペインGP前に行われたムジェロ合同テストでさらなる速さを手に入れたウィリアムズ、ザウバーといった中団グループ。今年のF1は、もしかすると過去10年、いや過去20年の中で最も激戦で、最も見ごたえのあるシーズンになるかもしれない。
『記事:吉田 知弘』
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