現地時間の5日(日)に決勝が行われた2013IZODインディカー・シリーズ第4戦サンパウロ。日本期待の佐藤琢磨(AJフォイト・レーシング)は、予選12番手から徐々に順位を上げ、残り20周でトップに浮上。最後はジェームス・ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポーツ)に最終ラップの最終コーナーでかわされ惜しい2位フィニッシュとなった。最後のバトルでは後半の早い段階で交換したレッドタイヤが消耗し、バックストレート直後のブレーキングでマシンが止まりきれず逆転を許してしまった。では、なぜ琢磨は終盤にきてタイヤがキツくなってしまったのか?そもそも予選まで不調だった琢磨のマシンが、なぜトップに浮上するまでの速さを手にしたのか?そして狭いサンパウロ市街地コースで、どうやって順位を上げてきたのか?今回の「Point of the Race」は、琢磨の驚異的な追い上げをみせた琢磨のレースを振り返ろうと思う。
【リスタート直後のターン1を上手く活用】
今回の舞台サンパウロ市街地特設コースは、全体的にコース幅が狭く路面も前回ロングビーチとは異なりバンピー。予選でも赤旗中断が続出したが、決勝レースでは予想以上にアクシデントが多く、75周(約2時間)のレースで合計7回もフルコースコーション状態となった。F1とは異なりインディでは少しのアクシデントでコーションにすることが多いため、1レース当たりの回数も多い。またリスタート時は2列に隊列を組むため、実質的にローリングスタートを再度行う形となり、リスタート時のターン1で他車をオーバーテイクできるチャンスでもあるのだ。琢磨は、そのリスタートに最大限の集中力を発揮。直後の混乱した状況をうまく利用、またプッシュ・トゥ・パス(PTP)も積極的に使用。スタート時と9周目のリスタートで計5つの順位アップに成功した。
[琢磨はリスタート時に有利なイン側のラインを死守して順位アップ(©INDY CAR)]
【チームも琢磨も柔軟に対応したピット戦略】
21周目に1回目のピットストップを行った琢磨。先頭を走るライアン・ハンターレイ(アンドレッティ・オートスポーツ)をはじめ上位集団が揃ってピットに入ったため、少しでも有利なポジションを手に入れようと給油量を少なめにしてAJフォイト・レーシングのクルーは琢磨を送り出した。これが見事成功し2つ順位を上げてレース再開。しかし今回の給油量では2ストップで走り切るのは厳しくなってしまう。そのため26周目のリスタートから一気にプッシュ。レッドタイヤ(ソフト)の利点も生かし、34周目には王者ライアン・ハンターレイ(アンドレッティ・オートスポーツ)を抜いてトップに浮上。あとは少しでもベストタイムを刻んで後続との差を広げ、2ストップで足りない燃料分を補給する時間を稼ごうとした。
前回ロングビーチでは味方をしてくれたレース展開も、さすがに幸運は2戦連続も続かなかった。トップにたった直後の37周目に後続でクラッシュが発生し、この日3回目のコーション。ここで残り燃料が少ない琢磨は2回目のストップを行い、新品のレッドタイヤに交換し給油を済ませコースへ。ライバル達は先ほどのピットでしっかり給油しているためステイアウト(コースに留まること)を選択したため19位まで後退してしまった。
順位だけで考えると優勝争いから脱落してしまったように見えるが、ここでAJフォイト・レーシングと琢磨は機転を利かせた作戦をとった。39周目にレースが再開されるが、直後に5台が絡むアクシデントが発生し、またしてもフルコースコーションに。再開まで数周の時間を要したタイミングで再度ピットイン。順位を大きく落とさない程度に給油を数秒間行い再びコースに復帰した。計算上、終盤に残り1回のピットストップを行わなければいけない琢磨は、その時のロスタイムを1秒でも減らすべく、コーションの間を利用して足りない分の燃料を補っていたのだ。
45周目にリスタートが切られると、ここからは我慢の展開。そして52周目にこの日6回目のコーションになり、上位陣と同じ周回で最後のピットイン。ここで先ほどの“追加分”があったおかげで、他車より給油時間は短時間に終わり、さらなるストップ時短縮のためタイヤ交換を行わず37周目に履き替えたレッドタイヤのままコースに復帰。こういった地道な努力が実を結び、4位まで挽回。再び優勝争いに加わるチャンスを手に入れたのだった。
【残り20周でトップ浮上!しかし、前半の“ツケ”が・・・】
55周目のリスタートが切られると4位の琢磨は一気に勝負をかける、まずはマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポーツ)をパスすると、続いてバックストレートでヒンチクリフをオーバーテイク。残るはJR・ヒルデブラント(パンサー・レーシング)のみ。彼は最後のピットストップが未完了だったため、直後に出た7回目のフルコースコーション時にピットイン。残り20周を切ったところで琢磨が19番手から再びラップリーダーに踊りでた。60周目、最後のリスタートでも最高の集中力でアドバンテージを持った状態でターン1へ。残るはトップの座をチェッカーまで守り切ることだったが、レース前半から無理矢理ピットでのロスタイムを削ってきた戦略が、最後の最後で大きなハンデとなってしまうのだった。
レース中盤のように一気に逃げを打ちたい琢磨だったが、装着中のタイヤは37周目に交換したもので、すでに30周近い距離を走っている。さらに比較的長持ちしないレッドタイヤということもあり、残り10周近く残した段階ですでにグリップは失われ限界に近づいていた。さらに直線でのスピードアップを狙えるPTPも前半積極的に使ったため、残り1回。一方、後続のライバル達は53周目に交換したタイヤで勢いもあり、PTPも平均で3〜4回残している状況。まさに“八方塞がり”の状態となってしまった。
まずはジョセフ・ニューガーデン(サファ・フィッシャー・ハートマン・レーシング)が襲い掛かってくるが、若さゆえに勝負を焦り、隙を見せない走りで完璧に封じ込めた。しかし、その後方で開幕戦覇者のヒンチクリフがPTPを残して虎視眈々。残り4周で2位に上がるとバックストレートでPTPを使って並びかけてきた。琢磨はイン側を死守して最終コーナーのブレーキング勝負に持ち込む。タイヤが消耗して滑りやすくなっているだけでなくブレーキにトラブルを抱えており減速時にスピンしそうになるが、何とかトップを守りきりファイナルラップへ。
バックストレートで最後のPTPを使用しアウト側に並ぶヒンチクリフ。琢磨もギリギリまでブレーキを我慢して粘ったが、最後はさすがに止まることができず、ヒンチクリフが前に出てチェッカーフラッグ。わずか0.3秒差で2連勝を逃す結果となった。
こうして振り返ると、非常に惜しいレースであったことは確かだが、消耗しきったタイヤとブレーキ。いつスピンしてもおかしくない状況でマシンをコントロールしながらトップを死守した走り。そして予選12位というポジションから、ここまで追い上げて終盤は20周近くラップリーダーに立ったレースは、優勝に等しい内容だったといえる。マシンを降りてインタビューを受けた琢磨も「悔しいけど仕方がない。最後はヒンチクリフの方が一枚上手だった。チームが本当に素晴らしい力を発揮して2位を勝ち取ることができ、感謝している」と納得した表情をみせた。
ただ“タラレバ”という話をするのであれば、1つだけ挙げられるのが2回目のタイヤ交換のタイミングだ。「あれは少しだけタイミングが早すぎました。新品のレッドタイヤを装着したのですが、ゴールまで35周以上走らなければいけなくて、最後はグリップがありませんでした。」34周目にトップに浮上した直後のフルコースコーション。残りの燃料などを考えると、あの判断は正しかったと言えば正しかったが、その数周後に出たコーション時にタイヤ交換という流れになっていれば、終盤の展開が変わっていただろう。しかし、あの時点で「次も必ずコーションが出る」という保証はどこにもなかった。そういう意味では今回は“不運”だったのかもしれない。
レースが終わってから振り返ると色々と見えてくる“タラレバ”。しかし、それらはレース中には未来に起きることなので全く予想がつかない。それを見据えてどう目の前の1周を消化していくのか?今回は琢磨を中心にして第4戦サンパウロを観ることによって、改めてレースの奥深さや難しさを感じることができた1戦だった。
【ポイントリーダーで伝統のインディ500へ】
レース結果としては悔しいものとなったが、この2位によりトータル136ポイントになった琢磨。日本人として初めてポイントランキング首位に踊り出た。次の舞台は伝統のインディ500。そう、昨年彼が初めて「優勝に手が届きかけた」レースだ。
先日、ロングビーチでの初優勝後に東京で行われた凱旋トークショーでも「インディ500では必ず昨年のリベンジを果たします」と強く語った琢磨。今年はまだオーバルでのレースがなく、AJフォイト・レーシングとしてもオーバルとの相性が良いのか悪いのか?ライバル達の様子など未知数な部分は多いが“ポイントリーダー”という、これまでにない実績と自信を持って伝統の1戦に挑むということは、間違いなく昨年以上のアドバンテージになるだろう。注目のインディ500は現地時間の5月26日(日)に決勝レースが行われる。
『記事:吉田 知弘』
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